メールマガジン「Nutrition News」 Vol.98
「日本人の糖尿病の食事療法に関する日本糖尿病学会の提言」

 日本における2型糖尿病の増加の大きな要因は、インスリン分泌能の低下をきたしやすい体質的素因に内臓脂肪蓄積型肥満によるインスリン抵抗性状態が加わったことであると言われています。2型糖尿病の予防や治療には生活習慣の是正が重要です。最近では、血糖に対する直接的な効果だけでなく、肥満の是正への効果などから、炭水化物の摂取量に関心が高まっています。日本糖尿病学会は、日本人の糖尿病患者の食事療法についての考え方を示すために「食事療法に関する委員会」を設置して検討を重ね、学会内外の意見も反映し、2013年3月18日、「日本人の糖尿病の食事療法に関する日本糖尿病学会の提言」を公表しました。

糖尿病の食事療法

 2型糖尿病の食事療法は、総エネルギー摂取量の適正化によって肥満を解消し、インスリンの作用からみた需要と供給のバランスを円滑にし、高血糖だけでなく糖尿病の種々の病態を是正することを目的としています。インスリンの作用は糖代謝だけでなく脂質やたんぱく質代謝にも密接に関連しているため、食事療法の実践は個々の病態に合わせてあらゆる側面からその妥当性が検討されなければなりません。 欧米と比べて脂質摂取量の少ない日本では、一般的に脂肪エネルギー比率の上限は25%とされています(動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年度版では20~25%を推奨)。また、日本糖尿病学会の糖尿病治療ガイドで指示されているたんぱく質摂取量は標準体重1kgあたり1.0~1.2g(50~80g/日)であり、摂取比率としては20%以下となります。脂質やたんぱく質の推奨摂取比率から、糖尿病で推奨される炭水化物の摂取比率は50~60%となり、その値は日本人の一般的な栄養素摂取比率にも合致しています。そのため、この摂取比率は嗜好性や遵守性も担保するものと考えられてきましたが、日本人の糖尿病の病態の変化や、食に対する価値観の多様性を踏まえ、新たなエビデンスを構築することが求められています。

 欧米では、肥満者の減量のための食事療法において、主に脂質を制限すべきか、炭水化物を制限すべきかについての論議が長く行われており、様々な報告がされています。2001年~2010年に発表された炭水化物摂取量と血糖ならびに心血管疾患発症リスクに関する研究を網羅したsystematic reviewが、2012年にDiabetes Care誌に掲載されています。この論文は、これまでの研究には多くの交絡因子があり特定の栄養素の糖尿病状態に及ぼす影響を見出すことは困難であることを指摘しています。 英国糖尿病学会の2011年のガイドラインは、2型糖尿病における血糖、体重の是正のための炭水化物制限の意義について、これを支持する報告があることを認めた上で、長期的な効果と安全性についてのエビデンスがないことを注意喚起しています。また、米国糖尿病学会の2013年の声明は、肥満者の減量のための低炭水化物食、低脂肪食あるいは地中海食は短期間(2年間まで)では有効であるかもしれないが、最適な栄養素摂取比率は病態によって異なり、栄養素摂取比率に関わらず、総エネルギー摂取量の適正化を優先すべきであるとしています 。

糖尿病における食事療法の在り方と課題

 これらの現状を踏まえ、日本糖尿病学会は以下のような提言をまとめました。

1) 糖尿病における炭水化物摂取について

糖尿病の予防や治療に重要な意味をもつ肥満の是正のためには、総エネルギー摂取量の制限を最優先とします。総エネルギー量の制限なしに炭水化物のみを極端に制限することは、長期的な食事療法としての遵守性や安全性などを担保するエビデンスが不足しており、現時点では薦められないとしています。

 2) 栄養素摂取比率について

糖尿病における三大栄養素の推奨摂取比率は、一般的には、炭水化物50~60%エネルギー(150g/日以上)、たんぱく質20%エネルギー以下を目安とし、残りを脂質とします。一方で、糖尿病腎症など合併症の有無や他の栄養素の摂取比率、総エネルギー摂取量との関係の中で炭水化物の摂取比率を増減させることを考慮して良いという見解が示されました。患者の嗜好性や病態に応じて、炭水化物の摂取比率が50%エネルギーを下回ることもありえるということです。 脂質摂取量の変化とともに糖尿病が増加していることや、糖尿病が心血管疾患の大きな危険因子となることから、脂質摂取比率の上限は可能な限り25%エネルギーとし、n-3系多価不飽和脂肪酸の摂取を増やしトランス脂肪酸の摂取を抑えるなどの脂肪酸構成への注意も喚起されています。

 食事療法は、継続して実行できなければ意味をなしません。日本糖尿病学会は今回の提言を「食事療法は、患者の病態・嗜好性に応じて、医師・管理栄養士などの医療従事者が患者と共に考え、それが有効かつ安全に実施されていることを常にモニターしていく必要があり、その中から新しいエビデンスを構築していかなければならない」と結んでいます。 

参考

 

・日本人の糖尿病の食事療法に関する日本糖尿病学会の提言 ~糖尿病における食事療法の現状と課題~
 
  • ごはんだもん!げんきだもん!~早寝・早起き・朝ごはん~
  • ダノングループ・コーポレートサイト

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